2026 FIFAワールドカップ北中米大会のグループステージで、日本、オランダ、スウェーデンの3カ国が思わぬ形で注目を集めています。初戦で日本がオランダと引き分け、その後オランダがスウェーデンを5-1で圧倒したことで、次戦の日本対スウェーデン戦は、グループFの行方を左右する重要な一戦となるでしょう。オランダ代表のキャプテンが「世界は日本を過小評価していた」と語るなど、サッカーのピッチ上でのドラマは尽きません。しかし、このスポーツの熱狂の裏で、これら3カ国は、地政学的な変化に対応すべく、静かに、そして着実に戦略的な関係を深めていることに、どれだけの人が気づいているでしょうか。
サッカーが映し出す国際関係の縮図
北中米ワールドカップのグループFでは、日本、オランダ、スウェーデンの3カ国が奇しくも同じグループに入り、互いに火花を散らしています。日本は初戦で強豪オランダと2-2の引き分けに持ち込み、世界を驚かせました。この結果に対し、オランダのキャプテンであるファン・ダイク選手は、「あの試合のあとの反応は、少し——失礼だとまでは言いませんが…。日本はしばらく無敗を続けていましたし、無失点の時期もあった。彼らはブラジル、イングランド、スコットランドを破っています。もとより、厳しい試合になるはずだったのです」と述べ、日本チームの実力を高く評価しています。
続く試合では、オランダがスウェーデンを5-1と圧倒的なスコアで下しました。 この大敗は、次の日本対スウェーデン戦の構図を大きく変えることになります。スウェーデンにとって、グループ突破には日本戦での勝利が不可欠となり、韓国メディアは「日本代表に超非常事態!」と報じるなど、日韓両国で注目を集めています。 サッカーの勝敗は、国の威信をかけ、国民の感情を揺さぶるものですが、その裏側では、目に見えない形で国際協調の動きが進展しているのです。
インド太平洋と欧州大西洋の安全保障:不可分な連携
実は、ワールドカップの熱戦が繰り広げられる中、日本とオランダ、そして日本とスウェーデンは、それぞれ二国間の「戦略的パートナーシップ」を強化しています。この連携の背景には、「欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分である」という共通認識があります。
2026年6月16日、日本の小泉防衛大臣はオランダのイェジルゲス=ゼゲリウス副首相兼国防大臣と東京で会談し、防衛協力の強化を確認しました。オランダ海軍フリゲート「デ・ロイテル」の東京寄港は、オランダがインド太平洋地域への関与を具体的に示すものとして歓迎され、両国は共同訓練を含む防衛協力・交流をさらに強化していくことで一致しました。また、防衛装備品・技術移転協定や物品役務相互提供協定(ACSA)の早期発効への関心も示されており、実務的な防衛協力が加速する見込みです。 これは2025年4月に発表された「持続的な平和と繁栄のための戦略的パートナーシップの設立に関する共同声明に基づく、日・オランダ・アクション・プラン2025」に基づく具体的な動きと言えるでしょう。
一方、日本とスウェーデンの関係も同様に深化しています。2024年12月、日本の石破総理大臣とスウェーデンのクリステション首相は会談し、両国関係を「戦略的パートナーシップ」に格上げする共同声明を発表しました。 スウェーデンがNATOに加盟したことで、欧州の安全保障環境が変化する中、日本との連携は「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化」に資するものと位置づけられています。 経済産業分野では、両国間でエネルギー及びイノベーションに関する協力覚書が署名されるなど、GX(グリーントランスフォーメーション)やデジタル分野での連携も進んでいます。
歴史的背景と現代の課題
日本とオランダは、江戸時代の鎖国中に唯一ヨーロッパとの貿易窓口であった出島を通じて、400年以上にわたる交流の歴史を持っています。蘭学を通じて西欧の知識が流入し、日本の近代化に大きな影響を与えました。 科学技術協力は古くから進められており、原子物理、金属材料、農業、医薬品、エレクトロニクスといった分野で研究協力が行われてきました。 この深い歴史的基盤が、今日の防衛や経済協力の土台となっていると言えるでしょう。
日本とスウェーデンの外交関係も、1868年の日瑞友好航海通商条約締結に遡る150年以上の歴史があります。 価値観を共有するパートナーとして、両国は長年にわたり皇室・王室間の交流を深め、経済、科学技術、学術、人的交流など多岐にわたる分野で協力を続けてきました。
これらの国々が今日、防衛や安全保障の分野で連携を強化している背景には、ロシアによるウクライナ侵略や、インド太平洋地域における地政学的緊張の高まりがあります。民主主義や法の支配といった普遍的価値観を共有する国々が、特定の地域に限定されない広範な連携を模索する動きは、国際社会の新たな潮流を形成しつつあります。
見過ごされがちな半導体戦略
さらに、これら3カ国に共通する重要な戦略分野として、半導体産業が挙げられます。特にオランダは、半導体製造に不可欠な露光装置で世界市場をリードするASML社を擁し、その技術力は世界のサプライチェーンの要です。 日本もまた、半導体材料や製造装置において高い技術力を持つ企業を多数抱えています。
2023年には、米国主導で、日本とオランダが中国への半導体および半導体製造装置の輸出規制に加わる形で「半導体包囲網」を形成したことが報じられました。 これは、経済安全保障の観点から、先端技術のサプライチェーンにおける連携と管理がいかに重要であるかを示すものです。日本、オランダ、スウェーデンといった先進技術を持つ国々が、経済と安全保障の双方で協力関係を深めることは、今後の国際秩序を形作る上で不可欠な要素となるでしょう。
これからの展望
サッカーのワールドカップという華やかな舞台で、日本、オランダ、スウェーデンが繰り広げる戦いは、スポーツファンにとって大きな興奮をもたらしています。しかし、その根底には、国際社会が直面する複合的な課題に対し、共通の価値観を持つ国々が手を携え、新たな秩序を構築しようとする地道な努力があるのです。
防衛協力、経済安全保障、先端技術開発といった多岐にわたる分野での戦略的パートナーシップは、単なる二国間関係の強化にとどまらず、欧州とアジアの安全保障を一体として捉える「連結された安全保障」の概念を具体化するものです。これらの国々が連携を深めることは、不安定化する国際情勢の中で、予測可能性と安定性をもたらす上で、ますます重要な意味を持つことになるでしょう。ピッチの上での競い合いが終わり、次のグループステージへと進むのはどの国になるのか。その結果とともに、水面下で進行するより深い国際関係の進化にも注目していく必要があります。