かつて中国経済の牽引役として栄華を極めた不動産大手、恒大集団(Evergrande Group)。その経営危機が表面化してから数年が経過しましたが、問題の根は深く、依然として中国経済全体に暗い影を落とし続けています。特にこの数週間、不動産市場の新たな冷え込みや、恒大集団の創業者に関する動向が報じられ、再び国際社会の注目を集めています。

恒大集団問題の現在地:上場廃止後の残された課題

恒大集団は、2024年1月に香港高等法院から清算命令を受け、2025年8月25日には香港証券取引所での上場が正式に廃止されました。これは、同社が抱える3000億ドル(約50兆円)を超える巨額の負債と、長期にわたる取引停止措置を受けた、いわば「形式的な」破綻手続きの最終章でした。

しかし、上場廃止は問題の終わりを意味するものではありません。恒大集団は2021年にドル建て債券のデフォルト(債務不履行)に陥り、その後も債務再編は難航。未完工の住宅プロジェクトが多数残されており、これらを購入した市民への引き渡し責任や、債権者への弁済は、清算人主導で進められていますが、膨大な債務に比べ回収できた資産はごく一部にとどまっています。

最近では、恒大集団が手掛けていた巨大テーマパークや人工島が工事途中で放棄され、「廃墟化」している実態が報じられました。15カ所以上のプロジェクトが放置され、絵本のような街並みが無残な姿をさらしていることは、危機が物理的な形で社会に深刻な爪痕を残していることを浮き彫りにしています。

中国不動産市場、回復遠く:大手も巨額損失

恒大集団の経営危機は、中国全体の不動産市場の構造的な問題の象徴であり、その余波は広がり続けています。2026年6月16日の報道によれば、中国の不動産株は、2024年9月に政府が打ち出した景気刺激策以前の水準まで逆戻りしています。

今年5月の主要70都市における新築住宅価格は前月比0.2%下落と、4月の0.19%から下げ幅が拡大し、市場の冷え込みが加速していることを示しています。 これは、長らく期待されてきたセクター回復への疑念を再燃させるものです。中国最大手デベロッパーの一角である万科企業(China Vanke)が第1四半期に約60億元(約1420億円)の純損失を計上したほか、金地集団(Gemdale)も大幅な損失を計上しており、業界全体に深刻なストレスが蔓延している状況がうかがえます。

モーニングスターの専門家は、全国的な住宅価格の底打ちが2027年以前には見込めないと警告しており、不動産不況の長期化は避けられないとの見方が支配的です。

創業者の罪状認否、深まる闇

恒大集団の創業者である許家印氏を巡る動きも注目されています。最近の報道では、許氏が贈賄や詐欺など、全ての罪状を法廷で認めたと伝えられています。 これは、「破綻することが予見できたにもかかわらず資金を集めた」という、一般市民の怒りを買う行為を含みます。

許氏の裁判が迅速に進まなかった背景には、共産党幹部との関係が指摘されており、中国の経済問題に絡む政治的要因の複雑さを物語っています。 このような幹部とデベロッパーの結託が、不動産価格の不自然な高騰や、問題の先送りにつながったという指摘もあります。

「不動産神話」崩壊の爪痕:未完成プロジェクトと地方経済

恒大集団に代表される不動産開発会社の経営破綻は、「不動産を買えば必ず儲かる」という中国の「不動産神話」を完全に崩壊させました。住宅の先払い制度が一般的だった中国では、完成前に代金を支払った購入者が、未完成の住宅の引き渡しを受けられない事態が多発しています。

これは個人の財産を脅かすだけでなく、社会不安の温床ともなっており、各地方政府は暴動を警戒しながら情報の出し方や問題解決の対処に追われています。 さらに、不動産不況は地方政府の財政にも大きな打撃を与えています。土地使用権の払い下げによる収入は地方政府にとって主要な財源であり、その減少はインフラ投資や住宅購入補助といった景気刺激策の縮小を招き、悪循環に陥っています。

中国政府の対応と長期化する危機

中国政府は、恒大集団の経営危機が金融システム全体に波及する「リーマンショック」のような事態を避けるため、慎重な対応を続けています。直接的な大規模救済には消極的な姿勢を示しつつも、未完成物件の引き渡し確保のため、政策銀行を通じた特別融資や国有企業による建設継続を促しています。

しかし、日本のバブル崩壊とは異なり、中国政府は情報統制を通じて危機管理を「ゆっくりと」進めているという分析もあります。 これにより、一気呵成なクラッシュは回避されているものの、問題の解決にはより長い時間を要し、傷が広がるペースは遅いものの、その代償は重いと指摘されています。

EV業界に広がる「恒大化」懸念

不動産セクター以外にも、同様の「恒大化」のリスクが指摘されている分野があります。特に注目されているのが、中国の電気自動車(EV)業界です。2026年6月16日の報道によると、中国のEV市場では激しい価格競争が繰り広げられており、業界の利益率を圧迫しています。

中国のEVブランド数は一時129に達しましたが、米コンサルティング会社の予測では2030年までに財務健全性を維持できるブランドは約15にとどまるとされており、約9割のブランドが淘汰されるか市場から退出する可能性があるとのことです。 この「消耗戦」が続けば、資金繰りやサプライチェーンの弱い部分からリスクが一気に顕在化し、不動産セクターと同様の経営危機に陥る企業が出かねないという懸念が広がっています。

日本との比較:バブル崩壊の様相

中国の不動産バブル崩壊は、しばしば日本のバブル崩壊と比較されます。しかし、中国経済研究の専門家は、両者には決定的な違いがあるとしています。

  • 崩壊のスピード: 日本や欧米のような民主主義国家では、情報がコントロールできないため、危機が明らかになると一気にパニック売りが発生し、クラッシュします。一方、中国は独裁国家であり、政府があらゆる情報を統制できるため、恒大集団のケースでも債務不履行から上場廃止まで約4年を要するなど、情報を小出しにして「ゆっくりと」崩壊させています。
  • 金融機関の健全性: 中国政府は日本のバブル崩壊の教訓から、金融機関に対する不動産関連貸出を厳しく制限してきたため、大手金融機関の不良債権問題は比較的軽微です。
  • 経済成長の原動力: 不動産依存度が低下する一方で、中国は半導体、AI、データセンター、ロボット、航空宇宙といったハイテク産業への投資を加速させており、これらの分野が高い成長を維持する見通しです。

中国経済の未来像:不動産依存からの脱却は可能か

恒大集団問題に端を発する中国の不動産不況は、今後も数年間は長期的な停滞が続く可能性が高いと見られています。 これは地方財政の悪化を通じて、インフラ投資や地方の消費に悪影響を及ぼし続けるでしょう。

しかし、国際通貨基金(IMF)の2026年4月の世界経済見通しでは、2026年から2030年までの中国の平均成長率は3.9%と、G7諸国を上回る高い成長率を維持すると予測されています。 これは、中国の金融機関の財務健全性が比較的保たれていることと、政府が推進するハイテク産業の成長が寄与すると見られています。不動産関連産業の経済全体に占める割合は今後徐々に低下し、ハイテク産業が新たな成長エンジンとなることが期待されています。

恒大集団の物語は、中国経済が抱える構造的な課題と、その解決に向けた道のりの険しさを改めて浮き彫りにしています。不動産市場の動向はもちろんのこと、他の産業への波及、そして中国政府の舵取りが、今後の中国経済の行方を左右する重要な要素となるでしょう。

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